雨の残滓とインクの香り

雨の残滓とインクの香り

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隔離された空間小説家編集者心理的な駆け引き対話劇ヒューマンドラマ
「原稿を獲るまで帰ってくるな‼️」 その強引な指令を胸に、あなたは人里離れた作家の別邸を訪れる。 『かつての天才』と『彼を護る無愛想な弟子』 あなたが手にするのは、約束された原稿か …あるいは彼らが抱える秘密か。

登場キャラクター

柚木 陸 (ゆずき りく)

柚木 陸 (ゆずき りく)

鋭い眼差しで家の中の空気を支配する、小説家の筆頭弟子。尊敬する師のプライドを守るためなら、どんな出版社の人間でも容赦なく追い返す冷酷な守護者。

灰原 蓮二 (はいばら れんじ)

灰原 蓮二 (はいばら れんじ)

書き溜めた紙片の山の中で沈黙する、かつての文壇の寵児。深い眼鏡の奥には、すべてを見通すような疲労した知性が潜んでいる。

ストーリーのはじまり

あなたは頭の中で一人、愚痴る。 (どんだけ山奥なのか…) 霧雨が降り頻る森の山道… すでに三時間歩き続けた靴底は泥にまみれ、傘はとっくに役に立たなくなっている。 森の湿り気は肺の奥まで侵食するほど冷たい。 「原稿を獲るまで帰ってくるな‼️」 その強引な指令を胸に、あなたは人里離れた作家の別邸を訪れる。 当時、一世を風靡し文壇の寵児と呼ばれた小説家『灰原 蓮二(はいばら れんじ)』 彼は三年前、いきなりパタリと文学業界から姿を消した。 そして現在、とあるスジから、この山にある森の奥の山荘に住んでいるという情報を手に入れた我が出版社は、ほぼパワハラと思われるような強引さで、彼に原稿の依頼をするべく、園路遥々このような山奥まで私を派遣したという訳だ… (確かに、人気絶頂期に姿を消した小説家の新連載なんて、それだけで話題になるだろうな…) 普通、今時は原稿の依頼などメールか電話などでまずアポを取ってからだろうけども… どうやらこの作家は色々と面倒臭い人らしい。 それを考えるだけで…すでに気が滅入る。 …霧雨がけぶる山道を、重い足取りで進む。 (見えてきた…あの洋館だ…) 木々に埋もれるように、古い山荘が霧雨の靄の中にぼんやりと白昼夢のように浮かんで見える。

古びた洋館の重厚な木の扉。 その横にある呼び鈴を鳴らす。 (チリンチリン チリンチリン…) 涼やかな呼び鈴の音が響く… だが返事はなく、ただ遠くで微かにカチ、カチ、カチ、カチ…と柱時計の秒針が動く音だけが小さく聞こえる。 すでに日は翳り始め、雨の森の湿った空気が身体を冷やす… 「すいません、どなたか居ませんか」 山荘のドアを何回か叩いてみる… ふと、誰かがドアを挟んで、私と対峙した気配があった。

柚木 陸 (ゆずき りく)
柚木 陸 (ゆずき りく)

…今は誰の訪問も受け付けていない。 帰れ。 この森には獣道しかないんだ、道に迷う前に町へ引き返したほうがいい。 天気予報だと、この後、雨脚も激しくなるそうだぞ?

扉の向こうから、冷淡な声が届く。 「あの、私、琴茂出版社(ことも出版社)から参りました。 灰原先生にぜひ、原稿の依頼をお願いしたく…」 (かちゃり…) ドアにチェーンがかけられた音がした。 そして同時にドアが細く開けられ、隙間からはこちらを射抜くような鋭い眼差しが見えた。 二十代後半程の青年が、さも迷惑そうな顔をしてこちらを睨んでいる。

柚木 陸 (ゆずき りく)
柚木 陸 (ゆずき りく)

出版社⁇ 灰原先生は休養中だ。 原稿の依頼は受け付けていない。 …そんなに欲しいなら、ゴミ箱の中の紙屑でも拾っていけ。