リブラの天秤は恋に揺れる
登場キャラクター
ヴェロニカ・ヴァレンシュタイン
王国の財務を担うヴァレンシュタイン公爵家の令嬢。頭脳明晰で自由奔放、退屈を嫌い、幼馴染たちを気まぐれに振り回す学園の問題児。夜には正体を隠して怪盗として暗躍し、汚職や不正を独自の美学で裁いている。主人公を当然のように連れ回す一方、二人きりになると立場が逆転し、徹底的に甘やかす。
セレスティア・ローゼンベルク
王国の司法を担うローゼンベルク公爵家の令嬢。誠実で責任感が強く、誰にでも公平に手を差し伸べる姿から学園中の信頼を集めている。法は人を守るためにあると信じる一方、意外にも負けず嫌い。普段は周囲を支える彼女だが、幼馴染の主人公と二人きりになると立場は逆転し、途端に甘えん坊になる。
エレオノーラ・グリューネヴァルト
王国の魔法を統括する公爵を父に、王立リブラ学園理事長を母に持つ令嬢。傲慢で冷徹な実力主義者として振る舞い、自身も万能と呼べる魔法の才と努力を誇る。しかし本来は善良で、努力する者や困っている者を見捨てられない。その優しさを「甘さ」と捉え、両親の教えと自らの本心との間で密かに葛藤している。
ストーリーのはじまり
春。 王立リブラ学園、高等部。 中等部から続く石畳の先には、これまでとは異なる巨大な校舎がそびえている。 王国各地から新たに集められた生徒たち。真新しい制服。掲示板の前で自分のクラスを探す声。 今日から始まる新しい三年間に、学園全体がどこか浮き足立っていた。 その雑踏の中でも、ひときわ目立つ赤い髪が揺れる。
おはようございます。いよいよ今日から高等部ですわね
セレスティア・ローゼンベルク。 幼い頃から何度も聞いてきた穏やかな声とともに、彼女が柔らかく微笑む。 その隣にはもう一人。 淡い青色の髪を揺らしながら、ヴェロニカ・ヴァレンシュタインが退屈そうに周囲を眺めていた。
新しい校舎、新しいクラス、新しい顔ぶれ……最初の三日くらいは楽しめそうね
せめて一週間くらいは興味を持ってくださいまし
無茶を言うのね、セレスティア
昨日までと何も変わらない。 場所が中等部から高等部へ変わったところで、幼い頃から続いてきた二人のやり取りまで変わる理由はなかった。 やがてヴェロニカが何かを見つける。 黄金色の瞳が細くなり、片方の口角が楽しそうに持ち上がった。 少し離れた掲示板の前。 周囲の生徒から遠巻きに視線を集めながら、一人の少女が腕を組んで立っている。 長い金髪をサイドダウンにまとめた、エレオノーラ・グリューネヴァルト。 幼馴染――そう呼んでも間違いではない。 幼い頃から互いを知り、王宮や家同士の集まりでも何度となく顔を合わせてきた。 けれど、いつも三人と一緒だったわけではない。 その距離は近いようで、ほんの少しだけ遠かった。
ちょうどいいわ
ヴェロニカが歩き出す。 嫌な予感でも察したのか、エレオノーラがこちらへ視線を向けた。
……何かな。その顔は
エレオノーラ。あなたも来なさい
断るよ
即答だった。
まだ何も説明してないでしょう?
君がその顔をしている時点で、説明を聞く必要はないと判断した
相変わらず賢いわね
褒めても行かないからな
ヴェロニカの笑みが深くなる。 エレオノーラの眉がわずかに動く。 その間へ、セレスティアが柔らかな笑顔で入った。
でも、せっかく同じ高等部へ進学したのですもの。ご一緒しませんか、エレオノーラさん?
…………
エレオノーラが黙る。 ヴェロニカ相手なら即座に断れる。 けれど純粋な善意だけで誘ってくるセレスティアには、どうにも強く出られない。
……君は本当に、そういうところが……
はい?
いや。何でもないよ
小さなため息。 それを見たヴェロニカは、勝ち誇ったように笑った。
決まりね
待て。僕はまだ行くとは――
それじゃあ、まずクラスを確認いたしましょうか
セレスティアまで話を進めるな!
朝の校門前に、エレオノーラの声が響く。 周囲から向けられる驚きの視線など気にも留めず、ヴェロニカは愉快そうに歩き始めた。 そして数歩進んだところで振り返る。 黄金色の瞳がこちらを捉える。 その後ろではセレスティアが穏やかに微笑み、エレオノーラは腕を組んだまま不満そうにこちらを見ている。 ヴェロニカが当然のように片手を差し出した。
ほら、何をぼんやりしてるの
ニヒルな笑みを浮かべる。
あなたも来なさい