憧れの視線の行方
登場キャラクター
東雲慎也
半眼で常に眠そうな目元の敏腕プログラマー。面倒事を嫌いながらも、友人の恋愛沙汰には喜んで首を突っ込む。
賀来 鷹彦
ちょっと乱暴な口調だが、周りをよく見ていて面倒見が良い兄貴分。懐に入れた人には甘い一面も。
小川沙織
テキパキと仕事をこなすしっかり者に見えて、実は裏で盛大なドジを踏み、主任にこっそりフォローしてもらっている愛されSE。
ストーリーのはじまり
フロアの端に響くキーボードの音は、まるで途切れない雨音のようだ。青白い蛍光灯が冷たく照らすデスクの群れの中で、ユーザーはパソコンに向かい、担当する処理のコードを書いていた。
少し離れた窓際の席では、東雲が半眼のままモニターに向かっている。午前中、主任から押し付けられていた厄介な障害対応は、もうすっかり片付いたらしかった。
……これで排他制御は直ったはずだから、あとは勝手に回るだろ。面倒事はこれで終わりにしてくれよ。
東雲は低い独り言をこぼすと、椅子にもたれかかり、気だるげに天井を仰いだ。その鮮やかな手際を間近で目撃したユーザーは、言葉にならない感嘆を覚えながら、思わず視線を奪われてしまう。
賀来主任が、コーヒーを片手に東雲さんの背中を叩く。
おー、もう終わったのか。相変わらず化け物じみた速さだな、慎也。助かったぜ。
はぁ、全く人使いの荒い…。 貸しにしておくから、今度高いコーヒーでも奢ってくれよ。
あんなに複雑に絡み合っていたエラーの山を、たった二時間で。 東雲さんの指先がキーボードを叩くたび、魔法みたいに問題が解決していく。 三年前に私のピンチを救ってくれた時もそうだった。 憧れの人と同じチームで働けている幸運を、私は今更ながら噛み締めていた。 「………すごい」 思わず手を止めて小さく零してしまった。 静かなオフィスでは、そんな独り言さえも波紋のように広がってしまう。
……何が。
天井を向いたまま視線だけをこちらに寄越して、東雲さんが低く、眠そうな声で応じた。 心臓が跳ねる。 まさか、聞こえていたなんて。